映像の原則から考える映画、漫画、ゲーム
アニメや映画を見るとき、どんな風に見ていますか? 特に何も考えず、話を楽しんで見るのが普通ですよね。僕もそうです。
ですが、これから紹介する「映像の原則」を知っているとより深くまで作品を楽しむことができます。知識として頭に入れておくだけでいいので、是非知ってください。
上手(かみて)と下手(しもて)
皆さんこの言葉を聞いたことがありますか?
ステージ上でバンドの演奏や演劇を行ったことがある人にとっては、なじみ深い表現かも知れません。
上手とは、客席から見て右側
下手とは、客席から見て左側
を表しています。
映像における上手下手の演出的効果
上手下手の原則とは何か?
上手には優位の印象効果が、下手には劣位の印象効果があるとされています。また、上昇志向のあるものは下手から上手に向かって。その逆に、下降志向をもつものは上手から下手へと。このような原則があります。
この原則にのっとると、物語における敵役は主人公に対して優位な立場にあるため上手側に。敵役に相対する主人公は下手側へ、と位置することになります。
そして、この上手下手の舞台の原則は、上手下手の由来である能舞台に限らず、アニメや映画などの映像作品でも演出の手段として利用できると、富野由悠季*1氏は『映像の原則』の中で述べています。
つまり、アニメや映画でも上手・下手の演出的効果が存在し、視聴者側を上記の画像の客席と考えるならば、原則として画面左側に主人公が、画面右側に敵役が位置することになります。※これは富野監督の考え方であり、全ての映像作品がこの原則に基づいて演出されているかは定かではありません。
下手側の視覚的意味合い
- 相対的、絶対的に力の弱い者
- 安定した立場
上手側の視覚的意味合い
- 相対的、絶対的に力の強い者
- 相対的に敵となるもの
- 極めて自然的なもの
下手から上手への動き
- 上手の強者に逆行する印象があるため、移動する主体が強い
- 上昇志向があるもの
- 要するにポジティブな動き
上手から下手への動き
- 流れに従っている当たり前の動き
- 自然的に強いもの
- 下降志向のあるもの
- 物語を通して敗北していく存在
- 要するにネガティブな動き
それではこの原則を、3つの映像作品を例に見ていきます。
シン・ゴジラ
この映像の中で、人間に対して圧倒的強者であるゴジラは、ほぼ全てのシーンで上手に位置しています。そして、攻撃されるシーンでは下手に位置していますが、上手側からの攻撃に逆らう様に描くことで、ゴジラの圧倒的な存在感を演出しています。
スパイダーマン:ホームカミング
この作品において、トニースターク(アイアンマン)はスパイダーマンの目付役的立場にあります。そのため、アイアンマンがスパイダーマンに説教するシーンではアイアンマンが常に上手側に位置しています。
ヴェノム
宇宙から来た寄生生物ヴェノムに支配される主人公は、ヴェノムと対するとき下手側に置かれています。
そしてヴェノムと一体化して、襲い来る敵を返り討ちにするシーンでは、その圧倒的な力を強調するかの様に上手側に位置しています。
この3つの例から分かるように、国内・海外問わずに映画では映像の原則が適応されています。
と、思っていました。
この記事を書くにあたって確認のために色々と調べてみたのですが、現実はもう少し複雑でした。
上で見た3つの例では、「弱者から始まる主人公は左から右へと進み、強者から始まり最終的に敗北する敵役は右から左へ進んでいくことから、映像作品は物語全体として左から右へ進んで行く」ことが読み取れたと思います。
ですが、これはどうやら海外の映像作品に限定されているようなのです。
それじゃあ、国内の映像作品はどうなのかと言うと海外の逆。つまり、右から左へと物語が進行していくことになります。
どうも1960年代中頃を境に、日本国内における映像作品の進行方向は海外の逆になってしまったようなのです。このことに関して論じている方がいらっしゃいましたので、その記事を載せておきます。日本の映画は全く見ないから自分じゃ気づかなかった……
ですが、これまた例外があり、現代の日本国内の映像作品が全て右から左進行かというと、そうでもありません。先に紹介した『シン・ゴジラ』や『機動戦士ガンダム』は左から右の流れで構成されています。ガンダムに関しては第5話の連邦軍とジオン軍の戦いが分かりやすいかと思います。
アムロたち連邦軍は基本的に下手側に位置し、シャアたちジオン軍は上手側に位置しています。基本はこの構図で進んでいきますが、アムロがザクを撃破するシーンでは優位な立場にあるアムロが上手側へと移動しています。
まとめると、
世界一般の映像作品:左から右
1960年代以降の日本:右から左
こんな感じです。
紙媒体での物語の進行方向
映像作品では海外と日本によって物語の進行方向が違うと分かりました。それでは、マンガで展開される物語の進行方向はどうなっているのでしょうか?
日本のマンガは、一般的に右から左へ流れるように読みます。ページを右から左にめくり、コマも基本的に右(上)から左(下)の流れで読みます。これに関して異論はないと思います。これは、現代の日本における映像作品の進行方向と同じです。
マンガは、日本だけでなく海外でも人気です。アメリカンコミック、通称アメコミは日本でも有名です。それでは、アメコミなどの海外のマンガにおける物語の進行方向はどうなっているのでしょうか?
自宅にアメコミがある方は手に取って確認するのが一番ですが、アメコミを持っていない方も多いと思います。そうした方は「アメコミ 表紙」で検索して見てください。
こんな風にアメコミの表紙がたくさん表示されます。日本の漫画の表紙も検索して比較して見ましょう。
何か気づいたことはありませんか?
アメコミの場合、キャラのが右側を意識してる表紙が多いです。そして、日本の漫画は左を意識している傾向にあります。この意識というのは体の傾きや目線などで分類しました。実際に手持ちのアメコミの中身を確認してみましたが、左から右に向かう流れを感じさせる構図が見受けられました。
こうした漫画における進行方向の違いは、文字文化の違いによるものだと考えられます。
日本語は、通常、右から左に読みます。横書きの場合、今では左から右ですが、昔は、横書きでも右から左に書いていた時代もありました。日本の漫画で吹き出しの中のセリフは縦書きで書かれています。だから、読むときは自然と右上から左下への流れになります。
一方で海外では、セリフが左から右に書かれているので、左から右へ読みます。その影響でアメコミなどは左から右に読む様になりました。面白いことに、日本語訳されたアメコミではセリフが横書きになっています。
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こうしたマンガ版「映像の原則」ともいえることについて詳しく考察しているブログを見つけましたので載せておきます。
ゲームにおける進行方向
映像作品や漫画には、国ごとに違いはあるものの物語の視覚的進行方向が存在することは既に述べました。それでは、ゲームにおいてはどうなのでしょうか?
世界的にも有名なゲームをいくつか例にして見ていきましょう。
右に進んで行きます
最初は右に進んで行き、目的を果たすと家へ帰るため左へ進みます。
『スーパーマリオブラザーズ』シリーズ
言わずもがな右に進んで行きます。
右から左へ進んで行きます。
『ファイナルファンタジー』シリーズ
3Dモデルになるカメラが動き出すと話は変わりますが、2Dでの戦闘では主人公達は右側に位置しています。
ひたすら敵を倒しながら右へと進んで行きます。
1Pは左側です。
右へ進んで行きます
主人公は左側
主人公達は右側
ドールズフロントライン(少女戦線)
主人公達は左側
様々なジャンルのゲームを見てきましたが、一貫した方向性があるかどうかというと微妙なところです。スクロール系のゲーム数で言えば右スクロール(左から右へ向かう)が多いと思いますが、それでも一定数左スクロールがあります。RPGに関して言えば、左と右、どちらも同程度に存在します。
結論:ゲームにおいて統一的な流れは存在しない
興味深いことに、映像作品や漫画では右から左という流れが存在していたのにゲームでは作品によってまちまちです。どうしてそうなったのかと言うと、映像作品や漫画と違い、ゲームはプレイヤー自身が操作していく体験型メディアだといことが最大の要因だと僕は考えます。
自ら登場人物を動かすことのできない前者は、様々な作品に触れる受け手を混乱させないよう業界全体として暗黙の内に統一的な流れが形成されることとなりました。一方で後者は、プレイヤーが登場人物を思いのままに動かすことができます。制作者が流れを作ってしまうと、ゲームとしての自由度を狭める結果となります。そのため、ゲームにおいて統一的な進行方向というのは決まっていないのだと考えます。現代のゲームはほぼ全てが3Dの世界なので、もはや進める方向は二次元ではありません。
統一的な流れはないと言いましたが、2Dアクションゲームに関しては右に進んで行くという流れがあるように思えます。これは、コンピュータプログラムが数学でおなじみのxy(z)座標を利用しているからだと考えられます。特別な理由が無い限り右へ進んで行く方が、プログラム的に実装しやすいのです。
まとめ
物語の進行方向
- 日本の映像作品 右から左
- 海外の映像作品 左から右
- 日本のマンガ 右から左
- 海外のマンガ 左から右
- ゲーム 統一的な流れはない(ただし2Dアクションは左から右が主流)
こう結論づけました。
繰り返しになりますが、この世に存在するすべての作品にこれが当てはまるとは考えていません。全てのクリエイターがこれを理解し、これに従って作品を作っているとは言えないからです。あくまで原則なので。
みなさんも、これまで触れてきた作品を、もう一度この視点を持って見返してみてはいかがでしょうか? 新たな発見があるかもしれません。