七草にちかは、俺だった【シャニマス】
七草にちかは、俺だった。
彼女は俺だった。
以下、七草にちかの共通コミュに関するネタバレが含まれますのでご注意ください。
「七草にちか」という存在
七草にちか。名字から分かる通り283プロダクションで働く事務員七草はづきの妹である。
齢は16
血液型はO型
特技は家事。趣味は音楽鑑賞
はづきさんの妹という以外に、プロフィール、ビジュアルに関して特別なものはない。昨年に追加されたノクチルの面々、また後日追加予定の緋田美琴と比べて正直パッとしない。平凡だ。
だが、彼女の真髄はその平凡さにあった。
平凡がゆえに
繰り返しになるが、七草にちかは平凡だ。
それはプロフィール、ビジュアルだけでにはとどまらない。アイドルの素質においてもだ。
シャニマスに登場するアイドルたちの馴れ初めは、オーディションや街中でプロデューサーが少女たちの才能に気づいてそのままアイドルになるというケースが多い。
だが、七草にちかの場合は違う。
彼女はアイドルになるため、半ば無理矢理といった形でプロデューサーに自分を売り込む。手段を問わず、プロデューサーを脅そうとしてまでも。そして最終的に、にちかは事務所に所属することになる。
だが、それは決して積極的なものではなかった。
プロデューサーは彼女にアイドルとしての素質を見出すことは出来なかった。それでもアイドルへの熱意を見せる彼女に折れる形で、最終的には実の姉であるはづきさんから「wingで優勝できなければ、アイドルは諦める」という厳しい条件付きでアイドルとして動き始めることになる。
こんなに後ろ向きなスタートのアイドルが他にいただろうか。
プロデュースが始まっても、プロデューサーの憂いは消えることがない。
それほどまでに彼女は”平凡”なのだ。普段ならアイドル達の才能に感化されて走り回るプロデューサーが、こと七草にちかのアイドルとしての将来においては足を止めてしまう。
プロデューサーの心配
なぜプロデューサーはそこまでして、にちかに思い悩むのか。
これまで通りのプロデューサーなら、アイドルの想いに応えて彼も全力で彼女をプロデュースするはずだ。だというのに、どうしてにちかのプロデュースにおいては消極的なのだろうか。
彼女にアイドルとしての素質がないからだろうか?
いや、ちがう。確かに彼女は平凡だ。だが、それだけなら彼女の能力を伸ばすためのレッスンを組めばいい。ならどうして?
それは彼女を思ってのことだった。
にちかのアイドルとしてのオリジン
にちかはいかにしてアイドルを夢見るようになったのか。
それは伝説のアイドル「八雲なみ」という存在が関係している。かつて存在した「八雲なみ」なるアイドルに憧れたにちかは自分もそうなろうとアイドルを志望する。
アイドルに憧れてアイドルを目指す。普通だ。
問題はそこからだ。アイドル、強いては「八雲なみ」に憧れるにちかは、自分自身に特別な才が無いことを自覚している。だから、彼女は自らのアイドルとしてのイデアである「八雲なみ」を真似る。
プロデューサーはそれを案じていた。
誰しも始まりは模倣から始まる。
平凡だからこそ自分にはない才に憧れ、それを真似る。それ自体は悪い事ではない。
だが彼女は「八雲なみ」にこだわりすぎていた。
「八雲なみ」というアイドル
八雲なみは、シャニマスの世界においては刹那的に活躍した伝説的アイドルとして知られている。それは彗星のように一気に輝き、そして芸能界からフッと消えた。七草にちかの物語は、八雲なみと共にある。
彼女の物語は、断片的に語られる。
始め、美しさしか持たなかった八雲なみはいくつものオーディションに落ちていた。そんな彼女を当時やり手のプロデューサーと言われていた天井社長が拾い上げ、強引なやり方で芸能界への階段を駆け上がる。彼女の本意とは違ったもののアイドルとしては確かに成功した。そして、彼女は芸能界を去った。
本意とは違う形でアイドルとして輝いた彼女は幸せだったのか、それは当事者以外にはわからない。だが、長く続かなかったということはきっと彼女に合ったものではなかったのだろう。
そんな刹那的で悲しさを纏う八雲なみに、七草にちかは似ていた。ただの真似ではなく、彼女のあとを追いかけそうになっていた。その先に待つのは、にちかにとって良いことなのか。プロデューサーはそれに気づき、悩んでいた。
幸せとはなんだろうか?
人にとっての幸せとは、一体なんなのだろうか?
当然それは個人によって異なり、画一的なものなどありえない。だからこそ幸せに答えなんて存在せず、誰にも正解は分からない。幸せとは自分で見つけるものだ。
なら、他人の言葉に耳を傾ける必要なんてないのだろうか?
いや、それは違う。幸せは自分で見つけるものだが、自分ひとりで考えられる幸せには限界がある。だからこそ他人の声を聞き、よりよい幸せを探すのだ。
七草にちかのコミュではそれが描かれる。
七草にちかの「幸せ」
プロデュース当初の彼女の幸せとは「八雲なみのようなアイドルになること」だ。
ここでの「幸せ」とは「目標」と言い換えてもいいかもしれない。
八雲なみに憧れアイドルを目指した彼女にとっての幸せ(目標)とは、憧れに追いつくこと以外に他ならない。彼女の動機がそれなのだから、それを満たさない限りその先は見えない。アイドルが簡単ではないことは知っている。それでも七草にちかはアイドルを目指した。
これが彼女がひとりで考え出した「幸せ」だ。
だが、我々は知っている。彼女が目指す幸せのその先に、真似できる道は存在していないことを。
七草はづきの考える、七草にちかの幸せ
七草はづきは実の妹である七草にちかが、「八雲なみ」という存在に憧れてアイドルを目指すことを知っている。そして、八雲なみのアイドルとしての人生も知っている。(これは憶測に過ぎませんが、事務員であるはづきさんが社長室にある八雲なみの白盤に気付かないはずがありません。そして白盤を見た彼女が、八雲なみと天井社長の繋がりに至らないはずがありません)
だからこそ、彼女は妹がアイドルを目指すことに反対した。傍目に見ても平凡なにちかがアイドルとして苦労することは目に見えていて、しかも八雲なみを心酔している。そんな彼女のアイドル人生が良いモノになるとは思えないから。そして、どう転んでも純粋にアイドルに憧れて笑っていた元の七草にちかに戻れないことが分かっていたから。
だからこそ七草はづきは、妹に対して厳しい条件を突きつける。
W.I.N.G.優勝。それはかなり厳しい条件だ。だが、それは姉なりの優しさでもある。他人から止める理由を先んじて与えられていれば、いざというときに区切りがつけやすい。
「アイドルになんてならないほうがいい」
それが姉の考える七草にちかの幸せなのかもしれない。
プロデューサーの考える、七草にちかの幸せ
プロデューサーの考えははづきさんと通ずるものがある。
初めはアイドル、八雲なみへの憧れを笑顔で語っていたにちかだが、いざアイドルとして研修を始めるとしだいに彼女の笑顔は消えていった。憧れを目指し、憧れとの差を感じ、アイドルとしての終わりを感じはじめる。
にちかにとって、これは幸せなことなのだろうか?
自分が彼女を事務所に迎えることで、彼女を不幸にしてしまったのではないだろうか?
彼女から笑顔を奪うことになってしまったんじゃないだろうか?
このままいけば、彼女は八雲なみと同じ道を歩むかもしれない。
だが、それでも途中で止めることはできない。自分で初めてしまったことだから無責任に放り出すことなんてできない。なら、自分にできることはなにか。
そして見つけたプロデューサーの答え
プロデューサーはにちかに笑っていて欲しいのだ。笑えているのなら、どんな道を歩もうとも、きっと幸せだから。それが、彼の考える七草にちかの幸せだった。
七草にちかは俺だった
七草にちかとは平凡な少女だ。何か突出した才があるでもなく、何かに憧れ、それに手を伸ばす。だけどそれは簡単には手の届かないもので、現実を知る。手を伸ばせば伸ばすほど、憧れまでの距離が見えてきて嫌になる。だが、他人から諦めろと言われても素直に従うことはできない。
それは誰しもが抱える悩みであり、俺もまたそのひとり。
七草にちかとは己を写す鏡だ。画面が暗くなるとそこに写るのは、画面の中の七草にちかと同じで現実に苦しむ自分自身の姿。七草にちかは俺であり、俺は七草にちかだ。……そうだ、そうだったんだ…………
俺が、俺こそがっ!
「七草にちか」なんだっ!!